休眠エンチャントにスポットライトを当てよう
マジックには数多くのエンチャントが存在していますが、「休眠エンチャント(Sleeping Enchantment)」をご存じでしょうか。
「休眠エンチャント」は『ウルザ・ブロック』を代表とするエンチャントであり、現時点では『ウルザ・ブロック』で22種、『時のらせん』で1種の計23種が存在。『ウルザ・ブロック』は最強のアーティファクト創造者である「ウルザ」をテーマにしており、収録されたカードの凶悪さからもアーティファクトがテーマのブロックだと勘違いされがちですが、実はブロックとしてはエンチャントが主テーマになっています。
いずれも「エンチャントとして戦場に出るが、対戦相手の何らかのアクションに呼応する形でクリーチャー化する」という性質は共通です。なお、クリーチャー化したあとはエンチャントである性質は失われるため、《解呪/Disenchant》などで破壊することは基本的にできません。
クリーチャー化するかどうかは対戦相手のアクションに委ねられているため、こうした「相手に選択肢のあるカード」は大抵カードパワーが低いと評価されがちです。もちろん相手のデッキによってはそもそもクリーチャー化する要素を満たさない場合もあるわけで、そうした影響も加味して休眠エンチャントはクリーチャー化した際のマナレシオは高く設定されていることが多いです。
あまり昨今のトーナメントシーンでは活躍していないカード群ではあるのですが、最近Vinicius Saito氏(@viniciusjuve)の「マーベリック」に休眠エンチャントのひとつ、《隠れたるテナガザル/Hidden Gibbons(ULG)》が採用されており、話題になっていました。
今回はそんな「休眠エンチャント」について掘り下げていきます!
https://twitter.com/viniciusjuve/status/1390339514946699264?s=20
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白の休眠エンチャント
まず大前提として、「休眠エンチャント」は白青黒緑のみに存在し、赤にはありません。
白には全部で8種類のカードが存在し、内訳はコモン3種、アンコモン1種、レア4種。4色の中で最も休眠エンチャントの枚数が多い色となっています。
白の休眠エンチャントのクリーチャー化のトリガーはほとんど共通していて、8種のうち7種が「対戦相手がクリーチャー呪文を唱えたとき」にクリーチャー化します。例外は《オパールの報復者/Opal Avenger(ULG)》のみで、こちらは「あなたのライフが10点以下であるとき」にクリーチャー化します。
それぞれのカードのマナレシオをまとめると以下のような形に。
カード名 | マナ総量 | スペック |
オパールの女人像 | 1マナ | 2/2 |
オパールのガーゴイル | 2マナ | 2/2飛行 |
オパールのチャンピオン | 3マナ | 3/3先制攻撃 |
オパールの立身像 | 3マナ | 2/4 ※エンチャントに戻る能力付き |
オパールの報復者 | 3マナ | 3/5 |
オパールの守護者 | 3マナ | 3/4飛行、プロテクション(赤) |
オパールのタイタン | 4マナ | 4/4プロテクション(唱えられた呪文の色) |
オパールの大天使 | 5マナ | 5/5飛行、警戒 |
こうして見ると、(リリース当初の)クリーチャーのカードパワーにしては強めではあるものの、白の休眠エンチャントはクリーチャーの質が高まった現代マジックでは通用しなさそうです。
クリーチャーの少ないコントロールデッキ相手にはほとんどクリーチャー化できず、クリーチャーを展開するアグロデッキに対してはスペックが追い付いておらず。昨今ではこのレベルのマナレシオを持つクリーチャーはゴロゴロいますし、自分が撃つ全体除去に巻き込みたくないときなど、限定的な用途でしか採用は厳しいと考えています。枚数が多いだけに残念!
青の休眠エンチャント
青の休眠エンチャントは5種類で、内訳はコモンが2種、アンコモンが2種、レアが1種。
クリーチャー化のトリガーは「対戦相手が呪文を唱えたとき」が4種類あり、例外的に《仮装のクロコダイル/Veiled Crocodile(USG)》だけが「いずれかの手札にカードが1枚もないとき」というトリガーを持っています。
こちらも同じようにマナレシオを比較してみます。
カード名 | マナ総量 | スペック |
鳥のヴェール | 1マナ | 1/1飛行 |
仮装の歩哨 | 1マナ | 唱えられた呪文のマナ総量分のP/T |
仮装の亡霊 | 2マナ | 3/3飛行、維持コスト(1)(青) |
仮装の大海蛇 | 3マナ | 4/4、相手に島がないと攻撃不可、サイクリング(2) |
仮装のクロコダイル | 3マナ | 4/4 |
スペックを見てみると、コストパフォーマンスが良さそうなのは《仮装の歩哨/Veiled Sentry(USG)》と《仮装のクロコダイル/Veiled Crocodile(USG)》の2枚。
《仮装の歩哨/Veiled Sentry(USG)》は1マナで設置しておいて、クリーチャー化すれば相手が唱えた呪文のマナ総量分のP/Tを持つことができます。つまり1マナにして3/3、4/4というサイズも夢ではないということ…!
しかしながら、このカードが使用できるフォーマットは軽量パワーカードが飛び交う環境。1マナ1/1程度に落ち着いてしまう可能性が高いです。他にも、0マナアーティファクトを置かれてあっさり昇天しまうリスクも。
《仮装のクロコダイル/Veiled Crocodile(USG)》は「いずれかの手札にカードが1枚もないとき」というクリーチャー化のトリガーですが、実はこれ、呪文や能力の解決中も常時チェックしています。したがって《巻物棚/Scroll Rack(TMP)》とは相性が良いのですが、ここまで準備をしてようやく3マナ4/4というのはあまり強くはなさそうです。
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黒の休眠エンチャント
黒の休眠エンチャントは3種類と少なめ。内訳はアンコモンが1種、レアが2種。
クリーチャー化のトリガーは3種それぞれ異なっており、「対戦相手のライフが10点以下であるとき」「クリーチャーが戦場から対戦相手の墓地に置かれたとき」「あなたのライフの半分(端数切り上げ)を支払う」と様々です。
こちらもマナレシオを比較すると…?
カード名 | マナ総量 | スペック |
隠れ潜むジャッカル | 1マナ | 3/2 |
隠れ潜むスカージ | 2マナ | 3/2飛行 |
隠れ潜む邪悪 | 3マナ | 4/4飛行 |
注目すべきは、《隠れ潜むスカージ/Lurking Skirge(ULG)》と《隠れ潜む邪悪/Lurking Evil(USG)》のスペックの高さ。
《隠れ潜むスカージ/Lurking Skirge(ULG)》のクリーチャー化の条件は「クリーチャーが戦場から対戦相手の墓地に置かれたとき」。つまりは相手がクリーチャーを出すデッキで、基本的にこちらが除去カードを併用している前提でのトリガーです。クリーチャー化のために一手間掛ける必要はあるのですが、もともと黒は除去が豊富な色ですし、条件は満たしやすいはずです。
2マナの3/2フライヤーというと《走り回るスカージ/Skittering Skirge(USG)》がありますが、こちらと同居できるのもポイント。それぞれを4枚ずつ採用した「8スカージ」、いかがでしょうか。
《隠れ潜む邪悪/Lurking Evil(USG)》のクリーチャー化のトリガーは「あなたのライフの半分(端数切り上げ)を支払う」であり、唯一能動的にクリーチャー化できるカードです。ライフの半分、というコストは相当な痛手ではありますが、3マナ4/4フライヤーというコストパフォーマンスは現代マジックでも十分に通用するスペック。
過去には「スーサイド・ブラック」や「ツイスト・ブラック」といったデッキでも大活躍した経験があり、近年のスーサイド・カードの代表例である《死の影/Death's Shadow(WWK)》との相性も良いです。色拘束の強いトリプルシンボルなのが玉に瑕。
緑の休眠エンチャント
緑の休眠エンチャントは全部で7枚。内訳はコモンが1種、アンコモンが2種、レアが4種。
クリーチャー化のトリガーは「対戦相手が特定の呪文を唱えたり、特定の土地をプレイしたとき」がほとんどで、インスタントや基本地形など、トリガーとなる対戦相手の行動は個別に異なっています(一部例外あり)。
マナレシオとクリーチャー化のトリガーをまとめると以下のようになります。
カード名 | マナ総量 | トリガー | スペック |
隠れたる蜘蛛 | 1マナ | 飛行を持つ生物 | 3/5到達 |
隠れたるゲリラ | 1マナ | アーティファクト | 5/3トランプル |
隠れたる獣群 | 1マナ | 基本でない土地をプレイ | 3/3 |
隠れたる捕食者 | 1マナ | パワー4以上の生物コントロール | 4/4 |
隠れたるテナガザル | 1マナ | インスタント | 4/4 |
隠れたる古木 | 2マナ | エンチャント | 5/5 |
隠れたる雄ジカ | 2マナ | 土地をプレイ | 土地をプレイすると元に戻る |
ここで着目したいのは、1マナ3/3以上のカードが5種類もあること!!
これは現代マジックのカードパワーで見ても破格の強さです。中には4/4、5/3といったサイズのものも存在します。
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中でも最もトリガー条件を満たしやすいのは、「対戦相手が基本出ない土地をプレイしたとき」にクリーチャー化する《隠れたる獣群/Hidden Herd(USG)》と、「対戦相手がインスタントを唱えたとき」にクリーチャー化する《隠れたるテナガザル/Hidden Gibbons(ULG)》。
このカードが使えるフォーマットでは、デュアルランドやフェッチランドなど特殊地形を採用しているデッキが大半ですし、インスタントも採用していないデッキの方が珍しいほど。1ターン目に設置することができれば、即3/3や4/4といったサイズで序盤からプレッシャーを掛けていくことが可能です。
なお、冒頭のVinicius Saito氏(@viniciusjuve)の「テナガザルマーベリック」は、デルバー系の対策のために《隠れたるテナガザル/Hidden Gibbons(ULG)》を採用しているそうです。
次点で使いやすいのは「対戦相手がアーティファクトを唱えたとき」にクリーチャー化する《隠れたるゲリラ/Hidden Guerrillas(USG)》でしょうか。
《霊気の薬瓶/AEther Vial(DST)》や《火と氷の剣/Sword of Fire and Ice(DST)》《虚空の杯/Chalice of the Void(MRD)》など、序盤から展開するアーティファクトを採用しているデッキは多いです。ただし「デルバー」系列のデッキなどアーティファクトを全く採用していないデッキもあるので、ややサイドボード向けのカードでしょうか。
噛み合うデッキと合わないデッキがあるものの、1マナ5/3トランプルというサイズは驚異的です。なにせ4回殴ればゲームが終わるのですから!